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文京区乳癌健診指定
現在、乳がんの標準手術には乳房温存手術と乳房切除術があります。乳房温存手術は「がん」と「がんに近い正常部分」だけ切除して、乳房の大部分を残す(温存する)手術です。乳房切除術は乳房を全て切除して、乳房のふくらみを残さない手術です。
最近では肝臓癌に対して広く行われているラジオ波焼灼術を乳がんの治療に応用し、切らずに治そうという試みが試験的に行われています。まだ始まって間もない治療であり標準的と言える段階にはありませんが、今後、ラジオ波焼灼手術のメリットやデメリット、治療成績(生存期間や乳房内再発の成績など)、どのような患者さんがこの治療に向いているのかが検討されてから標準治療に組み入れられていくと思います。また、先日テレビ番組で重粒子線を乳がん治療に応用する試みも放送されていましたが、標準化までまだまだ時間がかかりそうです。乳がんは進行の遅いがんなので、治療法の優劣を評価するにも最低10年間は経過観察して評価を下す必要があるのです。
そういうわけで、現在のところ一般の病院では、乳癌の治療として乳房温存手術か乳房切除術を選択肢として提示されることになります。
乳房にできた乳癌を取り除く方法として、乳房温存手術を選択しても、乳房切除術を選択しても、術後の生存期間に差がないことは証明されています。乳房を全部取った方が長生きできるのではないかと考える患者さんもいらっしゃいますが、それは勘違いです。術後の生存期間を決めるのは、診断された時点で既に遠くの臓器(肺、肝臓、骨、脳、リンパ節など)に転移しているがん細胞です。乳房の中にあるがんの切除方法が乳房温存手術であろうと乳房全切除であろうと、既に小さながん細胞が手術で取り切れない遠くの臓器に転移していれば再発リスクが高く、まだ転移していなければ再発しません。したがって、長生きするために乳房を全て切除するという考えは間違っているということになります。
一般的に、乳房切除手術に比べて乳房温存手術は美容上優れています。乳房切除は乳房を失うわけですから、当然乳房が残る方が美容上の満足度は高いと思います。しかし、乳房温存という言葉を「手術前の乳房の形がそのまま温存される」と解釈するのは間違いです。乳房温存という言葉は「乳頭・乳輪と乳房のふくらみが温存される」という意味であって、手術前と同じ乳房が温存されることを保証しているわけではないことに注意してください。
乳房温存手術でがんを切除する場合、がんをギリギリに切除するとがんが残る可能性がありますので、がんから1~2センチ離してがんのない正常組織を付けて切除します。したがって直径2センチの乳がんを切除する場合、直径4~6センチの切除範囲になります。それだけ切除するわけですから、手術前と同じ形の乳房が残るはずがありません。切除部分が窪んだり、乳頭の向きが変わるなどの変形が残ることはあり得ます。特にもともとの乳房が小さな患者さんでは変形が強くなる傾向があります。外科医はできるだけ形のよい乳房にするために、切除した部分に周囲の脂肪を持ってきたりして満足度の高い乳房を残すことを目指しますが、それでも若干の左右差は残ります。
乳房温存手術というよりも乳房部分切除と言い換えた方が誤解を避けられると思いますが、それでも大部分の患者さんはこの手術に満足されていますので安心して温存手術を受けてください。
ほとんど左右差のない乳房を希望される場合は、乳房温存手術でなく、形成外科のあるところで乳房切除+再建手術を行う方が良いでしょう。インプラントという人工物や脂肪注入を駆使すれば非常にきれいな乳房を取り戻すことが可能です。少し治療費が高くなりますが。
乳房温存手術のデメリットは乳房内に再発することがあることです。乳房内の再発は10年間で約30%に発生すると言われています。100人の患者さんに温存手術をすると10年間で30人に乳房内再発が発生するという計算になります。これはかなり多い数字ですので、乳房内再発を予防するために、温存手術をされた患者さんは手術後に温存乳房に対して放射線を当てます。これによって、乳房内再発は10年間で10%以下に抑えることができます。ただし、この治療のために5週間通院する必要があります。5分程度で終わる治療ですが、毎日通うのは大変です。
もし再発しても再度切除すれば問題ないとされていますが、心理的な負担は少なくないと思います。温存手術を受ける場合はデメリットの部分も考慮に入れて選択する必要があります。
温存手術には術後の放射線治療が必要であること、乳房内再発を早期発見するための定期的な超音波検査が必要であることなどデメリットもありますが、乳房を温存できるメリットは非常に大きく、今では70%の患者さんが乳房温存手術を選択されています。がんが大きいために温存手術は困難と思われる方でも、最近は手術の前に抗癌剤治療でがんを小さくしてから温存手術をする施設もあります。手術方法を決める場合は、メリットとデメリットを自分でよく考えて温存するかどうか決定してください。